庭の草や、木の若い芽に、小さな虫がびっしり。よく見ると、その虫たちのあいだを、アリがせわしなく歩き回っている――そんな場面を見たことはありませんか。アリは、その小さな虫を食べているのでしょうか。それとも、追い払っているのでしょうか。
この小さな虫の名前は、アブラムシ。じつはアリは、アブラムシを食べるでも追い払うでもなく、そばに寄りそって見張っています。なぜアリは、別の虫のそばを離れないのでしょう。
この記事では、アリとアブラムシのあいだにある、甘い汁をめぐる関係を見ていきます。
アブラムシって、どんな虫?
アブラムシは、植物の汁を吸って生きる、体長1〜4ミリほどの小さな虫です。カメムシに近い仲間で、針のように細い口(口針・こうしん)を植物にさしこみ、茎や葉の中を流れる汁を吸います。
この汁が流れる管を、師管(しかん)といいます。師管の中を流れるのは、植物が葉でつくった栄養――おもに糖(とう)、つまり甘い成分をたっぷりふくんだ液です。
アブラムシは、あまり動きません。やわらかい若い芽や葉のうらに、じっとくっついて汁を吸いつづけます。そして、おしりのほうから、透明でねばりのあるしずくを出します。このしずくが、とても甘い。これを甘露(かんろ)と呼びます。
なぜ、甘いしずくを出すの?
ここが、この話のおもしろいところです。アブラムシは、あまった栄養を、しかたなく捨てているのです。
植物の師管の汁には、糖はたっぷりありますが、体をつくるのに欠かせないアミノ酸(アミノさん・たんぱく質のもとになる成分)は、あまり多くありません。
アブラムシは、少ないアミノ酸を十分にとるために、汁をたくさん吸わなければなりません。すると、いっしょに入ってくる糖は、体が使いきれないほど多くなってしまいます。
そこでアブラムシは、あまった糖を、甘露としておしりから出します。つまり甘露は、アブラムシにとっては「あまりもの」。でも、この甘くて栄養のあるしずくが、アリにとってはごちそうになるのです。

アリは、なぜアブラムシのそばを離れないの?
甘露を目当てに、アリはアブラムシの群れに通ってきます。そして、ただもらうだけではありません。アブラムシを、天敵から守るのです。
アブラムシには、テントウムシ(の成虫と幼虫)やクサカゲロウの幼虫、寄生バチといった天敵がいます。どれもアブラムシを食べたり、体に卵を産みつけたりする、こわい相手です。アリはこうした天敵が近づくと、かみついたり追い立てたりして、アブラムシを守ります。
その効き目は、はっきりしています。アリのいるアブラムシの群れにテントウムシを近づけても、テントウムシはすぐに逃げ出してしまう、という観察があります。アリは、いわばアブラムシの用心棒(ようじんぼう)なのです。
甘露をもらう代わりに、天敵から守る。アブラムシは食べ物を差し出し、アリは護衛を引き受ける。昔から、アブラムシはアリマキ(蟻牧)――「アリの家畜」という意味の別名で呼ばれてきました。

たがいに得をする「相利共生」
ここからは、少し中学生や大人にも向けた、一段深い話です。
アリとアブラムシのように、種類のちがう生きものどうしが、たがいに利益を得ながらいっしょに暮らすことを、相利共生(そうりきょうせい)と呼びます。「相」はおたがい、「利」は得をすること。両方が得をする関係、という意味です。
アブラムシは、アリに守ってもらうことで、天敵から身を守れます。アリは、甘露という質のよい食べ物を、安定して手に入れられます。どちらか一方だけが得をするのではなく、両方に見返りがある。だからこの関係は、長い進化の時間をかけて続いてきました。
ただし、「仲良し」と呼ぶには、少し注意がいります。アリは、いつでもやさしい味方というわけではありません。甘露があまり出なくなったり、アブラムシがふえすぎたりすると、アリはアブラムシを食べてしまうことがあります。
守る相手であると同時に、食べ物でもある――そういう、割り切った間柄なのです。仲が良いから助け合うのではなく、たがいに得があるから続いている。ここが、相利共生を理解するうえで大切なところです。
近年の研究では、アブラムシのほうも、ただ一方的に利用されているのではなく、甘露を通じてアリを引きとめている、という見方も出てきています。どちらがより得をしているのか――その答えは、まだくわしく調べられている最中です。
ちがう生きものは、どうやってたがいを助け合う?
「食べ物と護衛を交換する」――アリとアブラムシのようなもちつもたれつは、じつは海の中にもあります。
クマノミとイソギンチャク
イソギンチャクの触手(しょくしゅ)には、さわった生きものをしびれさせる毒があります。多くの魚は、近づくことができません。ところがクマノミは、この毒にやられないしくみを持っていて、イソギンチャクのあいだに隠れ、外敵から身を守ります。
一方のイソギンチャクも、ただ場所を貸しているだけではありません。クマノミは、イソギンチャクを食べにくる魚を追い払ったり、大きなえさを分け与えたりします。守ってもらう魚と、守る住みか。ここにも、たがいに得をする関係があります。
掃除魚(そうじうお)と大きな魚
ホンソメワケベラという小さな魚は、自分よりずっと大きな魚に近づき、その体や口の中についた寄生虫(きせいちゅう)や汚れを食べます。大きな魚にとっては、体をきれいにしてもらえる。
小さな魚にとっては、食べ物が手に入る。だからふだんは小魚を食べるような大きな魚も、この掃除屋だけは食べません。
食べ物をもらう側と、きれいにしてもらう側。組み合わせはちがっても、「たがいに得があるから続く」という点は、アリとアブラムシとそっくりです。
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ことばの説明
- アブラムシ……植物の師管の汁を吸って生きる、体長1〜4ミリほどの小さな虫。おしりから甘露を出す。別名アリマキ。
- 甘露(かんろ)……アブラムシが出す、あまった糖をふくんだ甘いしずく。アリのごちそうになる。
- 師管(しかん)……植物の中で、葉がつくった糖などの栄養を運ぶ管。
- アミノ酸(アミノさん)……体やたんぱく質をつくるもとになる成分。師管の汁には少ない。
- 相利共生(そうりきょうせい)……種類のちがう生きものどうしが、たがいに利益を得ながらいっしょに暮らすこと。アリとアブラムシ、クマノミとイソギンチャクなどが例。
- 天敵(てんてき)……ある生きものを食べたり、おそったりする相手。アブラムシの天敵はテントウムシなど。
まとめ
アリがアブラムシのそばを離れないのは、なかよしだからではありませんでした。アブラムシは、汁の中のあまった糖を甘露として出し、それがアリのごちそうになります。かわりにアリは、テントウムシなどの天敵からアブラムシを守ります。
食べ物と護衛の交換――これが、二匹をつなぐ関係の正体です。
種類のちがう生きものが、たがいに得をしながら暮らすことを、相利共生といいます。ただし、あまった甘露が減れば、アリはアブラムシを食べることもあります。仲が良いから助け合うのではなく、たがいに得があるから続いている。
そう考えると、庭のすみで起きている小さなできごとも、生きものどうしの、したたかな取り引きに見えてくるのです。