中南米の森を歩くと、緑の葉のかけらを頭の上にかかげ、長い列をつくって運んでいくアリに出会うことがあります。
まるで、小さな緑の旗を持ったパレード。運んでいるのは、自分の体よりずっと大きな葉です。あれだけの葉を巣に持ち帰って食べるのでしょうか。
ところが、ハキリアリ(葉切りアリ)は、あの葉を食べません。葉を使って巣の中でキノコ(菌)を育て、そだてたキノコのほうを食べます。
葉を運ぶのは、畑の世話をするためなのです。この記事では、ハキリアリがなぜ葉を運ぶのか、そして「農業をするアリ」とはどういうことなのかを見ていきます。
なお、ハキリアリは中南米にすむアリで、日本の庭で見かけるアリとは別のなかまです。列を乱さず進むしくみや、アリとほかの生きものとの共生の話は、それぞれ別の記事で紹介します。
葉を運ぶアリ、ハキリアリって?
ハキリアリは、中南米(新大陸の熱帯)の森や草原にすむアリです。鋭いあごで葉を切り取り、切り取った葉のかけらを巣まで運びます。
運ぶ道は、木の枝や地面に長くのびて、緑のかけらが次々と流れていくように見えます。
大きな巣では、なかまの数が数百万匹にもなります。体の大きさのちがう働きアリがいて、葉を切るアリ、運ぶアリ、巣の中で世話をするアリと、しごとが分かれています。たくさんの葉が、毎日、巣へと運びこまれていきます。

葉は食べないの? ―― 葉で「畑」をつくる
では、これだけの葉をどうするのでしょう。巣の中に運ばれた葉は、細かくかみくだかれ、やわらかいペーストになります。ハキリアリは、そのペーストに小さなキノコ(菌)を植えつけ、大切に育てます。
葉は、キノコを育てるための畑であり、肥料なのです。
育ったキノコは、アリのために、やわらかく栄養たっぷりのつぶをつくります。ハキリアリは、このつぶを食べて暮らしています。
葉そのものは、アリには固くて消化しにくい食べ物です。でもキノコは、その固い葉をゆっくり分解し、アリが食べられる栄養へと作りかえてくれます。だからハキリアリは、葉を食べるかわりに、葉でキノコを育てるのです。

農業という「相利共生」
ここからは、中学生や大人にも向けた、もう一段深い話です。
ハキリアリとキノコの関係は、どちらか一方だけが得をしているのではありません。アリは、キノコに葉という食べ物と、育つ場所と世話をあたえます。
キノコは、アリに食べ物をあたえます。たがいに助け合って暮らす、この関係を相利共生(そうりきょうせい)と呼びます。ハキリアリの農業は、その代表的な例です。
おどろくことに、この結びつきはとても深いものです。ハキリアリが育てるキノコは、巣の外ではほとんど生きられません。
アリのほうも、このキノコなしでは生きていけません。二つでひと組になった、切っても切れない間がらなのです。しかも、この農業は今にはじまったことではなく、五千万年以上も昔から受けつがれてきたと考えられています。
畑を守るのも、アリの大切なしごとです。畑には、キノコをおそう悪いカビが入りこむことがあります。
ハキリアリは、巣の中をせっせと掃除し、悪いカビを見つけると抜き取ります。人が畑の雑草を抜くのと同じ、草取りのような世話です。
種類によっては、体に「薬」のようなはたらきをする小さな生きもの(微生物)を住まわせ、そのカビをおさえるといわれています。アリは「農業をしている」と言えるほど、手間ひまをかけて畑の世話をしているのです。
ヒト以外の『農業』とは?
生きものを育てて食べる「農業」は、じつは人間だけのものではありません。同じ問いで、ほかの生きものともつながります。
キノコを育てるシロアリ
アリと名前は似ていても、シロアリはアリとは遠いなかまです。それなのに、キノコを育てるシロアリのなかまがいます。巣の中に「キノコの畑」をつくり、運びこんだ植物でキノコを育てて食べるのです。
遠いなかまどうしが、それぞれ別々に「農業」にたどりついた――生きものの世界では、こうしたことが起こります。キノコを育てるシロアリは暖かい地域にすみ、日本でも南の島にそのなかまがいます。
藻の畑を耕すスズメダイ
海の中にも、畑を耕す生きものがいます。沖縄の海にすむクロソラスズメダイは、自分のなわばりの中で、食べやすい海藻だけを残して育てます。
じゃまな海藻はくわえて抜き取り、なわばりに入ってくるよその魚は追いはらう。まるで畑の草取りと見はりです。魚なのに、海藻の畑を耕して暮らしているのです。
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ことばの説明
- ハキリアリ(葉切りアリ)……葉を切って運び、その葉でキノコ(菌)を育てて食べるアリ。中南米にすむ。
- 菌(きん)……カビやキノコのなかま。ハキリアリが育てるのは、キノコのなかまの菌です。
- 相利共生(そうりきょうせい)……種類のちがう生きものどうしが、たがいに得をしながら、いっしょに暮らすこと。
- 収れん(しゅうれん)……遠いグループの生きものが、よく似た暮らしに合わせて、それぞれ別々に似たしくみを身につけること。ハキリアリとシロアリの「農業」も、その一例です。
まとめ
ハキリアリが運んでいた葉は、食べるためのものではありませんでした。葉は、巣の中でキノコを育てるための畑であり、肥料だったのです。アリは葉でキノコを育て、そのキノコを食べて暮らしています。
アリとキノコは、たがいに食べ物と世話をあたえ合う相利共生の関係で、どちらも相手なしには生きられないほど深く結びついています。畑を掃除し、悪いカビを抜き取り、ときには「薬」の力まで借りて、アリは畑を守ります。
生きものを育てて食べる農業は、人間だけのものではありません。キノコを育てるシロアリ、海藻の畑を耕すスズメダイ。遠くはなれた生きものたちが、それぞれのやり方で「農業」にたどりついたのです。ハキリアリの葉の行列は、その入口だったのです。