庭の植木鉢(うえきばち)を持ち上げたとき。庭の石をどかしたとき。土の上に、米つぶよりも小さな白いものがびっしりとならび、アリたちが大あわてで、その白いつぶを運んでいく――そんな場面に出会ったことはありませんか。
これは、何かの虫がわいたのでしょうか。それとも、アリの赤ちゃん。
この白いつぶの正体は、アリの卵(たまご)や、その子どもたちです。よその虫が迷いこんだのでも、アリが急にわいたのでもありません。巣の中で女王アリ(じょおうあり)が産んだ、新しい命のはじまりです。
この記事では、アリの卵とはどんなもので、女王アリがどれだけの数を、どれくらいのはやさで産むのか。そして、もし庭で白いつぶを見つけたら、どうすればいいのかを見ていきます。
アリの卵って、どんなもの?
アリの卵は、とても小さなものです。大きさは一ミリメートルよりも小さく、色は白っぽいクリーム色。細長い形をしていて、一つひとつはまるで小さなお米のようです。あまりに小さいので、土の上にあっても気づかないことがほとんどです。
白いつぶは、ぜんぶ「卵」じゃない
ここで、ひとつ気をつけたいことがあります。巣をほじくると見える白いつぶは、ぜんぶが卵とはかぎりません。
アリは、卵(たまご)→ 幼虫(ようちゅう)→ さなぎ → 成虫(せいちゅう)の順に育ちます。卵からかえったばかりの幼虫は、足のない白い芋虫(いもむし)のような姿。さなぎは、大人になる一歩手前の姿で、種類によってはまゆに包まれます。
つまり、いちばん小さい白いつぶが卵で、少し大きめの白いものは幼虫やさなぎ。アリが大あわてで運んでいるのは、卵よりも、目立つ大きさの幼虫やさなぎのことが多いのです。
卵を産むのは、女王アリ
では、この卵を産むのはだれでしょう。巣の中で卵を産むのは、基本的に女王アリだけです。ふだん地面を歩きまわっている働きアリ(はたらきあり)は、卵を産むかわりに、運ばれてきた卵や幼虫の世話をします。
なぜ「産む役」と「世話する役」に分かれているのか。その理由には、また別のおもしろいしくみがあります。それはべつの記事で見ていきましょう。

女王アリは、どれだけ卵を産むの?
アリの卵のいちばんのおどろきは、その数にあります。
一匹の女王アリが一生のあいだに産む卵の数は、ものすごくたくさん。種類によって大きく変わりますが、身近なアリでも、一つの巣が数千、ときに数万匹になることがあります。その一匹一匹が、もとはみな、女王の産んだ一つの卵です。
しかも女王は、調子のよい季節になると、ひっきりなしに卵を産みつづけます。卵から成虫まで育つあいだにも、つぎつぎと新しい卵が生まれていく。だから巣は、卵によって少しずつ大きくなっていく、一つのまとまりだと言えます。
数のけたが特別に大きいのが、グンタイアリ(軍隊アリ)のなかまです。グンタイアリの女王には、一か月のあいだに数十万、多いものでは百万ちかくもの卵を産むといわれるものがいます。同じ「アリの卵」でも、種類によってここまで差が大きいのです。

庭で白いつぶを見つけたら?
もし庭やベランダで、アリといっしょに白いつぶを見つけたら。それは、アリの卵や幼虫、さなぎかもしれません。
アリが大あわてでそれを運ぶのは、巣をあらされて、子どもたちを安全な場所へ移そうとしているからです。こわがって逃げているのではなく、守る行動です。
見つけたときは、そっと観察して、どかした石や植木鉢を元にもどしてあげれば十分です。卵や幼虫を集めたり、つぶしたりする必要はありません。気になることがあれば、おうちの大人に相談しましょう。
ひとつだけ注意。家の柱(はしら)や木材(もくざい)のあたりで、白いつぶや羽アリ(はあり)がたくさん出てくるときは、アリではなくシロアリのことがあります。シロアリは木を食べて巣をつくるため、家を傷めることがあります。その場合も、自分でどうにかしようとせず、大人に相談してください。
たくさん産むのは、なぜ?
ここからは、中学生や大人にも向けた、もう一段深い話です。
女王アリは、なぜそんなにたくさんの卵を産むのでしょう。それは、アリという生きものが、巣(コロニー)という大きなまとまりで生きているからです。
たくさんの卵が、たくさんの働きアリになる。働きアリが多いほど、エサを集め、巣を守り、子どもを育てる力が強くなります。一匹一匹は小さくても、数がそろうことで、巣全体が一つの大きな体のようにはたらく。だから、たくさん産むことが、この生きものの生きのびる方法なのです。
たくさん産んで数で勝負する生き方を、多産(たさん)といいます。アリの女王は、その多産の代表のような生きものです。一つひとつの卵は小さくても、集まれば、巣という一つの命を支える力になります。
一つの命から、どれだけ増える?
「一匹の親から、どれだけの子が生まれるか」。これは、アリだけの話ではありません。同じ問いで、ほかの生きものともつながります。生きものには、たくさん産むものと、少しだけ産むものがいます。
マンボウ
海をただよう大きな魚、マンボウ。一度にものすごい数の卵を産むことで知られ、その数は数千万ともいわれます。ほとんどは大人になる前にほかの生きものに食べられてしまいますが、たくさん産むことで、わずかでも生きのこるようにしています。アリの女王と同じ、多産の生き方です。
ゾウ
いっぽうで、ゾウは正反対です。ゾウのメスが一生のあいだに産む子は、ふつう数頭ほど。数は少ないけれど、長い時間をかけて一頭ずつ大事に育てます。少なく産んで手をかける、少産(しょうさん)の生き方です。
たくさん産んで数で残すか、少なく産んで大事に育てるか。生きものによって、命のつなぎ方はずいぶんちがいます。アリの卵の多さは、その「数で残す」生き方のあらわれなのです。
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ことばの説明
- 卵(たまご)……女王アリが産む、新しい命のはじまり。一ミリより小さく、白っぽい。
- 幼虫(ようちゅう)……卵からかえった、足のない白い子ども。働きアリが世話をする。
- さなぎ……幼虫が成虫になる一歩手前の姿。種類によってはまゆに包まれる。
- 成虫(せいちゅう)……大人になった姿。働きアリや、新しい女王・オスになる。
- 女王アリ(じょおうあり)……巣の中で卵を産む役割を持つメス。
- コロニー……アリの巣で、女王・働きアリ・子どもたちがいっしょに暮らすまとまり。
- 多産(たさん)……一度にたくさんの子や卵を産む生き方。マンボウやアリの女王が代表。
まとめ
庭で見つけた白いつぶは、わいた虫でも、よその生きものの卵でもありませんでした。巣の中で女王アリが産んだ、新しい命――アリの卵だったのです。
一匹の女王が産む卵の数はとても多く、グンタイアリのように、けたはずれにたくさん産むなかまもいます。その一つひとつの卵が、働きアリや次の女王になり、巣という一つのまとまりを大きくしていきます。
たくさん産んで数で残すのは、多産という生き方です。小さな卵の多さは、アリがこの世界で生きのびるための、たしかな工夫だったのです。
