植木鉢を持ち上げたとき。庭の石をそっとどけたとき。アリたちが大あわてで、白いつぶを次々とくわえて運んでいく――そんな場面に出会ったことはありませんか。あの白いものを、アリの卵だと思っていた人は多いはずです。
ところが、よく見ると形がそろっていません。細長いイモムシのようなもの。俵(たわら)のような茶色っぽいつぶ。頭も足も表面に浮き出た、小さなアリの形をしたもの。運ばれていたのは、育ちの段階がちがう、べつべつの姿です。
アリは、卵からいきなり小さなアリの姿で出てくるわけではありません。チョウやカブトムシと同じように、まったくちがう姿をいくつも通り抜けて大人になります。
この記事では、アリの幼虫とさなぎがどんな姿なのか、そしてなぜ、姿をここまで変えるのかを見ていきます。
アリの幼虫とさなぎは、どんな姿?
アリの巣の中では、卵・幼虫(ようちゅう)・さなぎ・成虫(せいちゅう)という四つの姿が、同じ時期に暮らしています。運ばれていた白いつぶの正体を、順に見ていきます。
卵は、思っているよりずっと小さい
アリの卵は、種類にもよりますが、長さ0.5ミリほど。白くて、少しねばりけがあります。ねばるおかげで、働きアリはいくつもまとめてくわえて運べます。
つまり、庭で見かける米つぶのような白いものは、卵にしては大きすぎるのです。あれは多くの場合、幼虫か、さなぎです。女王がどれだけの卵を産むのかという話は、別の記事で紹介します。
幼虫は、足のない白いイモムシ
卵からかえった幼虫には、足がありません。羽もなく、大きな目もありません。自分で歩けず、エサを取りに行くこともできない姿です。
そのかわり、世話をするのは働きアリです。口から口へ食べ物を分け、種類によっては、かみくだいたエサのかけらを幼虫の体の上に置きます。体をなめてきれいにし、温度や湿度のちょうどよい部屋へ運びます。幼虫の仕事は、ただ食べて大きくなること。皮がきつくなるたびに脱皮(だっぴ)をくり返し、体を大きくしていきます。
さなぎは、アリの形をした「工事中」
最後の脱皮のあと、幼虫はさなぎになります。ここで姿が一気に変わります。頭・胸・腹の三つに分かれ、6本の足と触角ができ、体の表面には成虫の形がそのまま浮き出ています。足も触角も、体にぴったり折りたたまれたまま。動きません。食べもしません。
さなぎの見た目は、種類によって二通りあります。幼虫が糸をはいて作った繭(まゆ)に包まれる種と、繭を作らず、裸(はだか)のさなぎになる種です。庭で見つかる俵型の茶色っぽいつぶは、繭に包まれたさなぎ。一方、ヒアリのように繭を作らない種では、アリの形が最初から見えています。

なぜ、姿をここまで変えるのか
足のないイモムシから、6本の足で歩くアリへ。ここまで作り変えるのは、大がかりな話です。それでも、この育ち方には理由があります。
一つめの理由:幼虫と成虫で、暮らしが分かれる
幼虫は、巣の中で食べて育つ姿です。成虫は、外を歩き、エサを見つけ、運び、巣を守る姿です。求められる体つきが、そもそもちがいます。同じ体で両方をこなす必要がないなら、幼虫は食べることに、成虫は動くことに、それぞれ体を寄せられます。
暮らす場所も、食べるものも分かれるため、親と子が同じエサを取り合うこともありません。ひとつの体で一生をまかなうかわりに、時期ごとに体を作り替える。姿を変えるのは、そのための道すじです。
二つめの理由:さなぎは、体を組み直す時間
足のない体に足を少し足しても、歩くアリにはなりません。体のつくりを、いったんほどいて、組み立て直す必要があります。その工事の期間が、さなぎです。
だからさなぎは、動かないのではなく、動けません。食べないのではなく、食べられません。工事のあいだ、身を守るのは働きアリの役目です。巣がこわされたとき、アリたちが真っ先にさなぎをくわえて逃げるのは、そのためです。
そして、さなぎから出てきた成虫は、もうそれ以上大きくなりません。かたい外側の皮におおわれ、体の大きさが決まってしまうからです。庭にいる小さなアリは、大きなアリの子どもではありません。小さいまま大人になった、べつの種類のアリなのです。


完全変態
ここからは、中学生や大人にも向けた、もう一段深い話です。
卵→幼虫→さなぎ→成虫と、さなぎの時期をはさんで姿が大きく変わる育ち方を、完全変態(かんぜんへんたい)と呼びます。アリのほか、ハチ・チョウ・カブトムシ・ハエなどが、この育ち方をします。
いっぽうで、バッタやセミには、さなぎの時期がありません。脱皮をくり返すたびに、少しずつ成虫の姿へ近づいていきます。こちらは不完全変態(ふかんぜんへんたい)です。同じ昆虫でも、育ち方には二つの道すじがあります。
では、さなぎの中では何が起きているのでしょう。幼虫の体の中には、成虫の体になる部分のもとが、あらかじめ小さくひそんでいます。成虫原基(せいちゅうげんき)と呼ばれるものです。
さなぎの中では、幼虫の体の多くがいったんほどかれ、このもとから、足や触角や、はねのある体が組み立てられていきます。幼虫の姿をどれだけ見つめても成虫の形が想像できないのは、成虫の設計が、幼虫の体の中にたたまれたままだからです。
なお、動かないさなぎが、ただ守られているだけの存在とはかぎらないことも分かってきました。2022年に発表された研究では、さなぎが成虫になる直前に出す液を、働きアリや、生まれたばかりの幼虫が飲むことが報告されています。
この液が飲めない幼虫は育ちが悪くなり、また、液がたまったままだとさなぎ自身も助からないといいます。何もしていないように見えた時期に、巣の中での役割があった――研究はまだ進んでいる最中で、すべてのアリで確かめられたわけではありません。

動かないさなぎの中で、体はどう作り替えられる?
さなぎの中で体をほどき、組み直す。これはアリだけの話ではありません。同じ問いで、ほかの生きものともつながります。
チョウとガ
アオムシは、さなぎになり、やがてチョウになります。さなぎの中では、幼虫の体の多くがほどかれ、成虫原基から、はねや長い口が作られます。
おどろくのは、それでも幼虫のときの記憶が残る場合があることです。ガのなかまであるタバコスズメガで、幼虫の終わりごろに「このにおいがしたら嫌なことが起きる」と覚えさせると、成虫のガになってからも、そのにおいを避けたという研究があります。もっと若い時期に覚えさせた場合は、成虫まで残りませんでした。体は大きくほどかれても、神経のつながりの一部は、時期によっては残っているのです。
カブトムシ
カブトムシの幼虫に、角はありません。土の中で丸い部屋(蛹室・ようしつ)を作り、その中でさなぎになったとき、はじめて角のある形があらわれます。
幼虫は落ち葉の積もった土の中で食べて育ち、成虫は木の上で樹液をなめます。暮らす場所も、食べるものも、体つきもちがう。その切り替えを引き受けているのが、動かないさなぎの時間です。
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ことばの説明
- 幼虫(ようちゅう)……卵からかえったあと、成虫とはちがう姿で育つ時期。アリの幼虫は足がなく、白いイモムシのような形。
- さなぎ(蛹)……幼虫から成虫へ、体を作り替える時期。食べず、ほとんど動かない。
- 繭(まゆ)……さなぎを包むふくろ。幼虫が糸をはいて作る。アリでは、作る種と作らない種がある。
- 脱皮(だっぴ)……古い外側の皮をぬぎ、体を大きくすること。
- 完全変態(かんぜんへんたい)……卵→幼虫→さなぎ→成虫と、さなぎの時期をはさんで姿が大きく変わる育ち方。アリ・ハチ・チョウ・カブトムシなど。
- 不完全変態(ふかんぜんへんたい)……さなぎの時期がなく、脱皮をくり返しながら成虫の姿に近づく育ち方。バッタ・セミなど。
- 成虫原基(せいちゅうげんき)……幼虫の体の中にひそむ、成虫の体になる部分のもと。
まとめ
アリが運んでいた白いつぶは、卵だけではありませんでした。足のない白いイモムシのような幼虫と、アリの形が浮き出た、動かないさなぎ。巣の中には、四つの姿が同じ時期に暮らしています。
幼虫は食べて育つ体、成虫は歩いて運ぶ体。同じ一生の中で役割が分かれるからこそ、体もいちど作り替えられます。その工事の時間が、さなぎです。動かないのではなく、動けない。中では、幼虫の体がほどかれ、あらかじめひそんでいたもとから、新しい体が組み立てられています。
アリは、卵→幼虫→さなぎ→成虫と姿を大きく変える、完全変態の昆虫だったのです。庭で見つけた白いつぶは、そのどこかの段階。何をしているところなのかが分かると、あの大あわての行列も、少しちがって見えてきます。