アリといえば、地面の下の巣で暮らし、行列をつくってエサを運ぶ――そんな姿を思いうかべる人が多いでしょう。ところが、決まった巣をまったく持たず、大群で歩きつづけるアリがいます。
行く手に谷や切れ目があれば、自分たちの体をつないで橋をつくり、その上を仲間がわたっていく。テレビや図鑑で見て、おどろいたことはありませんか。
このアリが、軍隊アリ(ぐんたいあり)です。一種類のアリの名前ではなく、群れで移動しながら狩りをするアリのなかまを、まとめて呼ぶ名前です。
ふつうのアリは巣を構えて定住し、そこを拠点に暮らします。それなのに、なぜ軍隊アリだけは巣を持たず、大群で歩きつづけて狩りをするのでしょう。
この記事では、軍隊アリとは何者なのか、そしてなぜ群れで動き、群れで狩るのかを見ていきます。
軍隊アリって、どんなアリ?
軍隊アリは、一種類のアリを指す名前ではありません。「群れで移動しながら狩りをする」という、よく似た暮らし方をするアリのなかまを、まとめてこう呼びます。
世界の軍隊アリ
大きく分けて、南北アメリカ大陸にすむグンタイアリのなかま、アフリカにすむサスライアリのなかま、アジアにすむヒメサスライアリのなかまが知られています。どれも、あたたかい熱帯(ねったい)の地域に多くくらしています。
日本でおなじみのクロアリやクロオオアリとは、暮らし方がずいぶんちがいます。テレビの映像に出てくる、地面をうめつくすような大群は、日本の庭や公園では見られません。
日本(西表島)の軍隊アリ
ただし、まったく縁がないわけでもありません。沖縄県の西表島(いりおもてじま)には、ヒメサスライアリのなかまがすんでいます。体長3ミリほどの小さなアリで、映像で見る大群とはずいぶん印象がちがいます。軍隊アリは、遠い外国だけの生きものではないのです。
目は、ほとんど見えない
意外なことに、多くの軍隊アリは、目がほとんど見えません。ではどうやって、これほど大きな群れがまとまって動けるのでしょう。手がかりは、においと振動(しんどう)です。
前を行く仲間が地面に残した道しるべのにおいをたどり、たがいの体のふれあいや揺れを感じとりながら、迷わず進んでいきます。目で見て進むのではなく、においと感触で進む――これが、軍隊アリの行軍(こうぐん)のしくみです。
巣を持たないの? ――体でつくる「ビバーク」
軍隊アリは、決まった巣を持ちません。では、女王や卵、幼虫はどこで守られているのでしょう。おどろくことに、働きアリたちが自分の体をつないで生きた壁をつくり、その内側に女王や幼虫を包みこみます。この、体でつくる一時的な巣を、ビバーク(野営)と呼びます。
ビバークは、必要なときにさっとつくられ、移動するときにはほどけて、また歩き出します。柱や土でできた家ではなく、アリの体そのものが、動く家になっているのです。

なぜ、歩きつづけて狩りをするの?
軍隊アリが群れで動き、群れで狩る理由は、大きく二つあります。
一つめの理由:群れなら、大きな獲物もとれる
アリ一匹の力は、ごくわずかです。自分より大きな虫は、一匹ではとても倒せません。ところが、数十万匹、ときには百万匹もの群れでいっせいにおそいかかれば、話は変わります。
一匹では歯が立たない大きな獲物や、すばやく逃げる虫も、群れの数の力でとらえることができます。軍隊アリの主な獲物は、ほかの昆虫(こんちゅう)や小さな生きもの。群れで狩ることで、一匹ではとどかない食べ物に手がとどくのです。
二つめの理由:一か所にいると、食べつくしてしまう
これだけの大群が一か所にとどまると、まわりの獲物をあっという間にとりつくしてしまいます。食べ物がなくなれば、群れは生きていけません。だから軍隊アリは、狩り場を移しながら旅を続けます。
この移動には、リズムがあります。幼虫がたくさん育つ時期には、えさがたくさん必要になるため、毎日のように移動して活発に狩りをします(放浪期/ほうろうき)。
いっぽう、女王が卵を産み、幼虫がさなぎになる時期には、群れは一か所にとどまって、おとなしくなります(定住期/ていじゅうき)。育つ命の様子に合わせて、旅と休みをくり返しているのです。
群れだからできること
ここからは、中学生や大人にも向けた、もう一段深い話です。
軍隊アリの一匹一匹は、とても単純な生きものです。体は小さく、脳もごくわずか、目もほとんど見えません。飛びぬけて強い武器を持つ一匹の英雄がいるわけでもありません。それなのに群れになると、一匹には決してできないことをやってのけます。
行く手の切れ目に生きた橋をかけ、一匹では歯が立たない大きな獲物をとらえる。どちらも、たくさんの体が集まって、はじめて生まれる力です。
ここで大切なのは、群れの力が、一匹の力の単純な足し算ではない、ということです。「一匹+一匹+……」をいくら重ねても、橋にはなりません。多くの個体が、群れとしてまとまって動くことで、はじめて橋という新しいはたらきが生まれます。
この、多くの個体が群れとしてまとまって動くことを、集団行動(しゅうだんこうどう)と呼びます。軍隊アリの生きた橋や群れ狩りは、その代表的な例です。
では、命令する者もいないのに、なぜ大群はばらばらにならず、ひとつにまとまって動けるのでしょう。この「リーダーなしでまとまるしくみ」も、生きものの大きな謎のひとつです。そのしくみについては、別の記事でくわしく見ていきます。
群れで動くと、何ができる?
「一匹では小さな力でも、大勢が群れとしてまとまると、一匹にはできないことができる」。これは、軍隊アリだけの話ではありません。同じ目で見ると、ほかの生きものともつながります。
オオカミの群れ狩り
オオカミは、数頭の群れで狩りをします。ねらうのは、シカやヘラジカのように、自分よりずっと大きな獲物。一頭だけでは、とても手におえません。
ところが群れで追いつめ、代わるがわる走って相手をつかれさせれば、大きな獲物もしとめられます。一頭ではとどかない大きな獲物に、群れの力で手がとどくのです。
皇帝ペンギンのハドル
南極(なんきょく)の冬、皇帝ペンギン(コウテイペンギン)は、何百羽もが体をぴったり寄せ合い、大きなかたまりをつくります。これをハドルと呼びます。
外側にいる鳥と内側にいる鳥が少しずつ入れかわりながら、たがいの体温であたため合う。一羽ではとても越せない氷点下の冬を、群れになることで生きのびるのです。
ことばの説明
- 軍隊アリ(ぐんたいあり)……決まった巣を持たず、群れで移動しながら狩りをするアリのなかまをまとめて呼ぶ名前。一種類のアリの名前ではない。
- ビバーク……働きアリが自分たちの体をつないでつくる、一時的な巣。女王や幼虫を内側に包みこむ。
- 放浪期(ほうろうき)……幼虫が育つ時期に、毎日のように移動して活発に狩りをする期間。
- 定住期(ていじゅうき)……女王が卵を産み、幼虫がさなぎになる時期に、一か所にとどまっておとなしくなる期間。
- 集団行動(しゅうだんこうどう)……多くの個体が、群れとしてまとまって動くこと。一匹ではできないことが、群れではできる。
まとめ
軍隊アリは、決まった巣を持たず、大群で移動しながら狩りをするアリのなかまでした。一種類の名前ではなく、アメリカ・アフリカ・アジアにすむ、よく似た暮らしのアリたちをまとめてこう呼びます。
女王や幼虫は、働きアリの体でつくる「ビバーク」に包まれて、旅を続けます。
なぜ、歩きつづけて狩りをするのか。群れで動けば、一匹ではとれない大きな獲物もとらえられる。そして、一か所にとどまれば獲物を食べつくしてしまうため、狩り場を移しながら旅を続けるしかない。
幼虫が育つ放浪期と、卵を産む定住期。その旅と休みのリズムが、育つ命に合わせてくり返されます。
一匹の軍隊アリは、小さな脳しか持たず、目もほとんど見えません。それでも群れになると、生きた橋をかけ、一匹では歯が立たない大きな獲物をとらえてしまう。
群れの力は、一匹の力の単純な足し算ではありません。多くの体が、群れとしてまとまって動くこと――集団行動――が、一匹にはできない大きなはたらきを生む。軍隊アリの旅は、その力の、いきいきとした実例だったのです。