恐竜(きょうりゅう)が歩きまわっていた大昔、その足もとには、どんな生きものがいたのでしょう。じつは、いまも私たちの足もとを行き来している、あの小さなアリが、すでにそこにいたかもしれません。
アリは、どこにでもいる身近な虫です。でも、いつから地球にいるのかは、あまり考えたことがないかもしれません。おどろくことに、アリは恐竜と同じ時代――白亜紀(はくあき)――には、もう地上にいました。そして、恐竜の多くを消し去った大きな絶滅(ぜつめつ)を生きのびて、いまも元気に暮らしています。
この記事では、アリがいつ地球に現れ、どのように進化して、いまの姿になったのかを見ていきます。
アリは、いつ地球に現れたの?
アリの祖先(そせん)をたどっていくと、たどりつくのはハチに近い虫です。ハチのなかまから枝分かれして「アリ」と呼べる姿になったのは、ジュラ紀の後期から白亜紀のはじめごろ、だいたい一億数千万年前だと考えられています。
ずいぶん昔の話なので、はっきりした年代には幅があり、研究者のあいだでも数字は少しずつちがいます。ただ一つはっきりしているのは、アリが恐竜と同じ時代を生きていた、ということです。
恐竜時代のアリの化石
いまのところ見つかっている中でいちばん古い、確かなアリの化石は、ブラジルの石の中から見つかりました。およそ一億一千三百万年前のもので、二〇二五年に報告されたばかりの新しい発見です。
このアリは「地獄アリ(じごくアリ)」と呼ばれるなかまで、いまのアリにはない、鎌(かま)のようなあごを上に向けて持っていました。えものをその場ではさみとる、今とはちがう狩りをしていたと考えられています。
同じ時代に、あの恐竜たちも歩いていたのです。
もう少しあとの時代、およそ九千二百万年前のアリは、琥珀(コハク)――大昔の木のやにが固まったもの――の中に閉じこめられた姿で見つかっています。このころのアリは、まだハチのような特徴をいくつか残していました。
アリがハチのなかまから分かれてきた、その名残(なごり)です。

どうやって、いまのアリになったの?
恐竜と同じ時代にいたとはいえ、白亜紀のアリは、いまほど数も種類も多くありませんでした。当時の虫の化石を集めても、アリはそのうちの一パーセントほど。地球の主役とは、まだ言えない存在でした。
ところが、六千六百万年前、大きな出来事が起こります。巨大ないん石が地球にぶつかり、恐竜をふくむ多くの生きものが、まとめていなくなってしまったのです。これを大量絶滅(たいりょうぜつめつ)と呼びます。
このとき、アリは生きのびました。そして絶滅のあと、アリはむしろ数と種類を大きくふやしていきます。
花の植物とともに広がった
アリがふえた理由の一つが、花をさかせる植物(被子植物・ひししょくぶつ)の広がりです。花の植物が森からいろいろな場所へ広がると、新しい食べ物やすみかが次々に生まれました。アリは、その一つ一つの場所に合わせて暮らし方を変え、たくさんの種類へと枝分かれしていったのです。
いまでは、アリは南極(なんきょく)をのぞくすべての大陸にいて、その種類は一万数千種。地球でもっとも栄えた虫のなかまの一つになりました。あの小さな体が、恐竜の時代から現代まで生きぬいてきた結果です。

進化と適応放散(てきおうほうさん)
ここからは、中学生や大人にも向けた、もう一段深い話です。
一つの祖先から、いろいろな暮らしに合わせて多くの種類へ枝分かれしていくことを、適応放散(てきおうほうさん)と呼びます。アリが花の植物の広がりに合わせて種類をふやしたのは、この適応放散のよい例です。
大事なのは、アリはひとりでに多様になったのではない、ということです。花の植物、木、ほかの虫、そして地面の下の環境――そうした周りの生きものや自然との関わりの中で、少しずつちがう姿・ちがう暮らしのアリが生まれてきました。
進化は、その生きものだけで進むのではなく、周りとの関わりの中で進んでいくのです。
今の生きものは、いつ生まれた?
「いまいる生きものは、いつ地球に現れたのか」。この問いは、アリだけの話ではありません。同じ問いで、ほかの生きものともつながります。
カブトガニ
海辺にすむカブトガニは、「生きた化石」と呼ばれます。そのなかまは、恐竜が現れるよりもずっと前、およそ四億年以上も昔の海に、すでにいました。おどろくことに、その姿は大昔からほとんど変わっていません。
カブトガニもまた、恐竜を消し去った大量絶滅を生きぬいて、いまも海にいます。ずっと昔からいて、いまも残る――アリと同じように、長い時間を生きぬいてきた仲間です。
鳥(トリ)
「恐竜は、みんな滅んでしまった」。そう思っている人は多いかもしれません。でも、じつはそうではありません。空を飛ぶ鳥(トリ)は、恐竜のなかま(獣脚類・じゅうきゃくるい)から生まれた子孫だと考えられています。
大量絶滅のとき、恐竜のなかで鳥につながる仲間だけが生きのびました。つまり、恐竜はいまも空を飛んでいる、とも言えるのです。
庭に来るスズメも、大昔の恐竜とつながっています。アリが白亜紀から生きぬいてきたのと同じように、恐竜もまた、姿を変えながらいまの世界に生きているのです。
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ことばの説明
- 白亜紀(はくあき)……恐竜がさかえた時代のおわりのころ。およそ一億四千五百万年前から六千六百万年前まで。
- 化石(かせき)……大昔の生きものの体やそのあとが、石などに残ったもの。
- 琥珀(コハク)……大昔の木のやにが固まったもの。中に虫が閉じこめられて残ることがある。
- 大量絶滅(たいりょうぜつめつ)……多くの種類の生きものが、短いあいだにまとめていなくなること。
- 適応放散(てきおうほうさん)……一つの祖先から、いろいろな暮らしに合わせて多くの種類へ枝分かれすること。
- 生きた化石(いきたかせき)……大昔から姿をあまり変えずに、いまも生きている生きもの。カブトガニがよい例です。
まとめ
アリは、別の時代からやってきた新しい虫ではありませんでした。恐竜が歩きまわっていた白亜紀には、もう地上にいた、古い歴史を持つ生きものだったのです。
恐竜をふくむ多くの生きものが消えた大量絶滅を、アリは生きのびました。そして花の植物の広がりとともに、いろいろな暮らしへと枝分かれし、いまの一万数千種にまでふえていきました。
あの足もとの小さなアリの一匹一匹が、一億年をこえる長い進化の先にいる姿なのです。
姿を変えながら生きぬいてきたのは、アリだけではありません。カブトガニも、そして恐竜から生まれた鳥も、それぞれのやり方で長い時間を生きてきました。いまの生きものはいつ生まれたのか――その問いをたどると、足もとのアリから、地球の深い歴史が見えてきます。