庭のすみ、ベランダのタイル、台所のかべぎわ。よく見ると、いろいろなアリが歩いています。とても小さいアリ。少し赤っぽいアリ。やけに大きいアリ。「これは何ていうアリだろう」と、名前が気になったことはありませんか。
色や大きさを見れば、種類が分かりそうな気がします。けれど、それだけではなかなか決められません。この記事では、なぜ色や大きさだけでは決められないのか、そして種類に近づくにはどこを見ればよいのかを見ていきます。
小さい・赤い・でかいで、種類は決まるの?
「小さいアリ」「赤いアリ」「でかいアリ」。どれも見たままの、分かりやすい呼び方です。でも、この呼び方は一つの種類を指す名前ではありません。
同じくらいの大きさのアリにも、赤っぽいアリにも、たくさんのちがう種(しゅ)がふくまれています。色も大きさも、同じ種の中で変わることがあるからです。
同じ巣でも、大きさはちがう
一つの巣の中には、役割のちがうアリがいます。卵を産む女王(じょおう)は、ふつう働きアリよりずっと大きく、オスもまた姿がちがいます。さらに、種類によっては、働きアリの中にも大きいものと小さいものがいます。
同じ巣・同じ種の中に、大小がならんでいることがあるのです。ですから「大きいアリ」「小さいアリ」だけでは、種類を一つに決められません。
色も、いつも同じとはかぎらない
色も、たよりになりそうで、ならないことがあります。さなぎから出てきたばかりの働きアリは、色がうすく、時間がたつとだんだん濃くなります。光の当たり方によっても、見える色は変わります。
そのうえ、「赤いアリ」と呼ばれるものにも、「黒いアリ」と呼ばれるものにも、別々の種がいくつもふくまれています。色は、最初のヒントにはなりますが、それだけで種類を言い当てるのは難しいのです。

では、どこを見ればいいの?
色や大きさが決め手にならないなら、何を見ればよいのでしょう。手がかりになるのは、体の「つくり」です。色や大きさとちがって、つくりは育ちや光ではほとんど変わりません。観察するときは、次の三か所に注目します。
腰のくびれと、こぶの数
アリの体は、頭・胸・腹(はら)の三つに分かれ、胸と腹のあいだがきゅっとくびれています。このくびれのところに、「こぶ」と呼ばれる小さなふくらみ(節:せつ)があります。
このこぶが一つか、二つか。数えてみると、それだけで大きなグループのちがいが見えてきます。色や大きさよりも、こぶの数のほうが、種類に近づく手がかりになります。
触角の「く」の字
つぎは触角(しょっかく)です。アリの触角は、とちゅうで「く」の字に折れ曲がっています。この折れ曲がった触角は、アリのなかまに共通する目印です。まっすぐな触角の虫がいたら、それはアリではないかもしれません。
大きさと色は、「あわせ技」で
大きさや色が、まったく役に立たないわけではありません。こぶの数や触角の形といったつくりと「あわせて」見れば、立派な手がかりになります。
ただし、大きさや色だけで「この種だ」と言い切ることはできません。図鑑(ずかん)でも、最後はつくりで分けます。見分けには限界があることを知っておくと、かえって観察がていねいになります。
大きさや色は、何で変わるのか
ここからは、中学生や大人にも向けた、もう一段深い話です。
同じ種なのに、なぜ大きさがちがうのでしょう。多くの昆虫(こんちゅう)は、幼虫(ようちゅう)のときにどれだけ食べたかで、おとなの体の大きさが決まります。成虫(せいちゅう)になってからは、もう大きくなりません。
アリの働きアリに大小があるのも、育つときの食べ物の量などが関わっています。大きさは、生まれつき決まった「種類のしるし」ではなく、「育ちの結果」という面があるのです。
色も同じように、育ちや時間で変わります。羽化(うか)したばかりはうすく、外側のからがかたく色づくにつれて濃くなります。
いっぽう、腰のこぶの数のような体の基本のつくりは、育ちではほとんど変わりません。長い進化(しんか)の歴史の中で分かれてきた、グループのちがいを映しています。
だから図鑑は、変わりやすい色や大きさよりも、変わりにくいつくりを手がかりに種類を分けるのです。

色や大きさのちがいは、何を表す?
「色や大きさがちがう=別の種類」とはかぎらない。これは、アリだけの話ではありません。同じ問いで、ほかの生きものともつながります。
カブトムシの大小
カブトムシには、大きな個体と小さな個体がいます。けれど、大きさがちがっても同じ種類です。幼虫のときにたくさん食べた個体は大きく、そうでない個体は小さくなります。大きさのちがいは「育ち」のちがいであって、別の種だからではありません。
アマガエルの色
アマガエルは、いる場所に合わせて、緑色になったり茶色になったりします。同じ一匹でも、まわりによって色が変わるのです。色のちがいは「まわりに合わせた変化」であって、別の種だからではありません。
アリの大きさや色も、これと同じです。ちがって見えても、別の種とはかぎりません。だからこそ、体のつくりを見るのです。
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ことばの説明
- 腰(こし)……アリの胸と腹のあいだのくびれ。あいだに「こぶ(節:せつ)」があり、その数はグループのちがいを表します。
- 触角(しょっかく)……頭から出て、においやまわりのようすを感じる器官。アリは「く」の字に折れ曲がっています。
- 羽化(うか)……さなぎから成虫が出てくること。出たばかりは色がうすく、時間がたつと濃くなります。
- 多型(たけい)……同じ種の中に、大きさや形のちがう個体がいること。働きアリの大小は、その一つの例です。
まとめ
小さいアリ・赤いアリ・でかいアリは、それぞれが一つの種類の名前ではなかったのです。色や大きさは、同じ種でも、育ちやまわりのようすでちがってくるからです。種類に近づく入口は、腰のくびれとこぶの数、触角の「く」の字といった、体のつくりにあります。色や大きさだけで決めず、体をよく見ること。断定はできなくても、そこから分類の入口に立てます。見なれないアリや、刺すアリにはむやみにさわらず、迷ったら大人に相談しましょう。色と大きさの先に、体のつくりを見たとき、アリを見分けるおもしろさが始まるのです。
